ライカレンズはなぜ高い?
今回のライカの小話はレンズの話。
ライカはボディの性能もそれなりに評価されているが、やはりメインは高性能なレンズであろう。
ライカのレンズはどれも高性能なだけでなく、すべてのレンズが高品質な作りであることが特徴だ。
国産レンズは明るいレンズが上位レンズで暗いレンズは廉価仕様で併売されていることが多い。
しかし、ライカはそのようなことはしない。
明るさの違いにより各レンズに銘が振られており、明るいレンズはコストがかかる分高価になっているが、暗いレンズと明るいレンズにおいてボディの素材や仕上げのクオリティは変わらない。
どのレンズを買っても高品質な金属鏡胴にスムーズなフォーカスリングの動作が体感できるわけである。
しかしそれでもライカレンズはあまりに高いと思う方もいるかもしれない。
一体どこにそんなコストがかかっているのか?
一つ一つその理由を見ていこう。
ライカレンズはこうしてできる
まずは私の大好きな動画を見てもらおう。
ライカが提供している公式動画だ。
物づくりが好きな人まこういう動画をみてるだけでワクワクしてくるのではないだろうか?
まず動画は半透明の石鹸のようなものを取り出すところから始まるが、こちらがレンズの原型である。
これを研磨し精製することで様々なレンズが生まれるのだ。
動画を進めていくと様々な工程が手作業で行われていることがわかると思う。
上のシーンはレンズ側面の反射を抑えるため黒色の塗料を塗っているところ。
こういうところも1枚1枚専用の筆を使い手で塗っていく。
ちなみにこの塗料、昔使われていたのは墨(和墨)だったらしい。
今では様々な塗料が使われているらしいがニコンのタイ工場などでは硯と墨と筆があるそうで、担当に聞いたら「やっぱり墨が一番ですよ」と話していたと聞く。
こちらはレンズ同士を貼り合わせるシーンだ。
このようなシーンでレンズを素手で触っていることに驚く人もいるかもしれない。
しかし、下手に手袋などをすると返って滑って落としたり精密な作業ができなかったりする。
また、埃が入ってしまうこともあるためレンズなど精密な光学機器であっても組み立ては素手で行ったりするものなのだ。
そしてこちらはレンズの縁にある文字の彫込に白の塗料を流し込んでいるシーン。
流石に彫り込むのはオートメーション化されているが、そこに塗料を入れるのは手作業。
そしてレンズの組み上げはもちろん手作業だ。
1つ1つネジを締めていく。
また動画内では映っていないが、ライカのレンズはフルMF機でありかなり精密な動作が求められる。
ただレンズをパーツから組み上げるだけでも熟練の技が必要となってくるのだ。
ちなみに上のシーンで組み上げているレンズは「ノクチルックス 50mm F0.95」。
世界最高峰の明るさを持ち、値段も100万円を超える超弩級レンズだ。
いくら技術が進んだからと言ってもオートメーション化できる部分とできない部分がある。
また、オートメーション化できるとってもその専用機械を導入するにはウン百億というコストがかかってくる場合もあり、ライカなどの小規模メーカーは返って人の手を使ったほうが安上がりだったりするのだ。
こうしてドイツのマイスターたちによってライカレンズは作成されている。
当然、年間生産台数は少なく手間暇もかかるためコストも掛かるわけだ。
参考に国産レンズの作られる風景もお届けしておこう。
国内メーカー シグマのレンズ工場
こちらも私が大好きな動画。
純国産にこだわる光学機器メーカーSIGMAの工場である。
昔から安価だが写りがよく、そして純国産に拘ってきたメーカーだが最近はその品質もだいぶ改良され、レンズによっては純正を凌ぐ出来である。
こちらの動画を見る限り、国内メーカーもやってることはライカとそう変わらない。
オートメーションのマシンがちょくちょく出て来るが、基本は人の手を介しレンズの精製から組み立てを行っている。
先ほどライカの動画でも紹介したレンズ側面の塗りもちゃんと一つ一つ手で行っている。
会津工場の見学ツアーではこの作業の際に使う筆などが展示されて見れるそうな。
一度見に行きたいものだ。
さてSIGMAとLEICAを比べてみて皆さんはどう思っただろうか?
SIGMAだって手抜きせずちゃんと手組してるじゃないか!
やっぱりLEICAはボッタクリだ!と思う方もいるだろう。
今や世界最高レベルの描写と言われるレンズ SIGMA 50mm F1.4 Artは定価で13万円を切る。
同じF1.4のレンズとしてはLEICAは以前に紹介したズミルックス 50mm F1.4 ASPH.があるが値段は4倍程度の約50万円だ。
なぜココまで値段に差が生まれるのか。
ドイツと日本、そこまで物価が違うわけでもないだろう。
おそらく考えられるのは大量生産か少量生産かの違い、そして求められる組み立て精度の違い、環境の違いだろう。
SIGMAの動画ではズラッとレンズを並べ大勢いの工員が作業していることがわかると思うが、ライカはレンズ1つ1つを丁寧に作っていた。
工場風景を見てみるとこれがSIGMAの工場内部。
いかにも工場といった感じで効率的かつ大量に作ることを前提に造られた作業場だ。
一方、チラッとしか映らないがライカの作業所は一人ひとりが机に向かい座って作業しているのが分かる。
また、レンズ工場ではないがボディの工場を紹介している動画もあり、そちらの工場内のワンシーンがこちら。
どこの小洒落たオフィスだよ…という風景だ。
そういえばドイツといえば高級車メーカーポルシェの工場とかもとても明るく清潔感ある工場風景だった気がする。
日本の工場とドイツのそれも高級メーカーの工場では基本的なスタンスが違うのだろう。
効率性を求めれば日本流がいいのだろうが、職人が一つ一つ卓越した技巧で物事を組み上げていくのならこういうスタイルになるのかもしれない。
もはやライカはただ工業製品を生み出す工場ではなく工芸品など作る職人の集まる工場(こうば)と考えたほうが良いのだろう。
このような手間ひまをかけているからライカレンズはどうしても高くなる。
ではそこまで高いレンズは本当に良いものなのか。
最後にレンズの描写について話しておこう。
ライカレンズの性能は本物か?
レンズの性能を確かめるのはいくつか方法があるが、ただ撮って出しの絵を見比べて差を見極めるのは難しい。
計測機器で光学性能を数値化すれば比較も楽になるが、ただ数字だけで写りを判断するのも誤りだ。
ただ参考にはなるため今回はいくつかのレンズ性能を比べた表があったのでそれを参考にライカレンズの性能を見てみよう。
こちらは代表的なライカレンズと高性能と呼ばれる他社のレンズの解像度などをテストしまとめた表である。
上の表が開放F値のときの数値。
つまり開放F値がF/1.4のレンズであればF1.4のときの性能、開放F値がF/2.0のレンズはF2.0のときの性能を表す。
そして下の表がすべてのレンズをF2.0に絞ったときの性能比較である。
まず突出しているのが表の上から2つめにある「Leica f/2 APO Summicron」である。
これはライカが今持っている最新技術の粋を集めて設計した最新レンズで、開放F値はF2.0と暗いもののライカが期待したとおり、世界最高レベルの光学性能を達成している。
私がこの前買ったズミルックスは上から3番目の「Leica 1.4 Summilux」だが、上の表の開放F値で見たら、他のF1.4のレンズと比べ頭一つでている性能を示している。
高い金払って買った価値は十分あったということだ。
ただ、F2.0まで絞った場合、そこまで数字の改善は見られず、代わりに下から2番目の「Sigma f/1.4 Art」に負けてくる。
先にも書いたがSIGMA 50mm F1.4 Artは定価で13万円程度。
ズミルックス 50mm F1.4 ASPH.は約50万円のレンズなのでその差は4倍程度なのだが、性能はほぼ均衡しているといえる。
また、一番下の「Zeiss f/1.4 Otus」は光学機器の老舗メーカー カールツァイスが世界最高峰のレンズとして生み出したレンズで定価も40万円を超えるのだが、数字だけ見ればシグマやライカのレンズに負けている。
特に「Zeiss f/1.4 Otus」と「Sigma f/1.4 Art」は同マウントで販売されているため、実売35万円程度の「Zeiss f/1.4 Otus」を買うくらいなら実売10万円以下の「Sigma f/1.4 Art」を買ったほうがいいんじゃと巷では言われているほどだ。
まぁ、この表だけ見てもライカレンズの性能の高さは分かっていただけると思うが、それならシグマのほうがよっぽど低コストでいいレンズを提供しているじゃ無いか!
ライカレンズはやっぱりボッタクリだ!という結論を変えるに至る材料にはならないと思う。
しかし、実際のレンズを見てもう一度よく考えてもらいたい。
こちらが世界最高峰の描写を実現するため生み出された「Carl Zeiss Otus 1.4/55」である。
カールツァイス120年のレンズメーカーとしての歴史の集大成とも言えるこのレンズは、設計に一切の制約と妥協を排除し、非球面レンズや異常部分分散性の特殊光学レンズを採用した10群12枚という構成である。
55mmのレンズでここまで大きく、多くのレンズを使ったものはこれまでなかっただろう。
全長は12cmを越え、重量は約970gと色んな意味で超弩級なレンズだ。
続いて「Sigma f/1.4 Art」。
Artラインと呼ばれる高品質高描写なレンズシリーズとして生み出されたこのレンズは、8群13枚とレンズ構成だけ見たら「Carl Zeiss Otus 1.4/55」より1枚多いレンズ構成となっている。
特殊低分散ガラスレンズ3枚と非球面レンズ1枚を採用しており、高クオリティな描写を実現している。
サイズは「Carl Zeiss Otus 1.4/55」よりもコンパクトだが、それでも約10cm程度の全長に800gを超える重量だ。
上記二つは一眼レフ用のレンズということも有り、サイズも重量も大きくなるのは仕方ないが、それでもここまでの描写を実現するために大量のレンズを採用している。
その為、サイズも重量もとんでもないことになっているのだが、一方ライカレンズはどうだろうか。
まずライカはその信念として、カメラもレンズもスナップに最適化するよう、よりコンパクトによりシンプルにまとまるよう設計している。
「Leica 1.4 Summilux」も開放での描写は上記2レンズを上回るにもかかわらず、5群8枚と少ないレンズでより高性能な描写を実現している。
3本のレンズを並べるとこうなる。
如何にライカレンズがコンパクトかつシンプルなのがお分かりいただけるだろう。
これだけコンパクトにまとめるのはそれなりの設計、複雑な機構が必要であり、その分組み上げ精度も要求される。
そしてその分コストも高くなるというわけだ。
さて今回は長々とライカレンズの値段の理由を書いてきた。
皆さんにもライカの値段が決して不当に高いというわけではないとご理解して頂けたと思う。
ただ、正直使い勝手や性能、値段を見ると国産カメラメーカーの方が多くの人に支持されているのは現在のカメラ業界を見れば明らかだと思う。
それらに比べライカのカメラやレンズは古臭く時代遅れのものに見えるのも分かる。
レンジファインダーにこだわり、その伝統とこだわりを捨てきれなかったメーカーライカ。
しかし、そのブランドは決してハリボテなどではない。
デジタルカメラが主流になった今でも、最高の技術と写りを提供してくれるブランドであることは間違いないのだ。
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