Elmarit 135mm F2.8 1stの描写
手洗い滝で折り返し、これまで付けていたズミルックス50mmを外す。
バッグから取り出したのは「Elmarit-M 135mm F2.8」。
このレンズが登場したのは1963年。
実に60年以上も前に設計されたオールドレンズだ。
現代の最新レンズといえば、開放からカリカリに解像し、ボケも歪みや癖のない優等生的な描写が主流。
それに対して、この時代のエルマリートは少し違う。
ピントを合わせた場所は細くしなやかに描きながら、そこから背景に向かって滲むようなボケを見せる。
どこか柔らかく、そして情緒的。
今回はそんなレンズの素の描写を皆さんに味わって欲しくて、今回貼っているのはすべて「撮って出しのJPEG」。
設定は基本的に開放F2.8。
手ブレを防ぐためシャッタースピードは1/500秒を最低とし、ISO感度はオート。
ホワイトバランスは、深い緑に馴染むよう「日陰」に固定した。
ここからは、60年前の眼で見た山道を少しだけ紹介していこう。
1.圧縮効果が描く山道
135mmの圧縮効果によって、奥へと続く木々がぐっと引き寄せられる。
実際の距離感以上に緑が密集して見え、山道の奥行きが一気に濃くなった。
細くしなやかな線で木々を描くエルマリートの描写が、この静かな山道によく似合っている。
2.苔むした石畳の質感
ゴツゴツとした石の角。
その表面を覆う苔。
最新レンズのような硬質なシャープさとは少し違い、わずかな柔らかさを残した描写になった。
開放F2.8の浅い被写界深度も加わり、足元の無骨な質感がしっとりと浮かび上がる。
3.森の奥に佇む切り株
苔や樹皮の質感にピントを合わせる。
すると、その部分だけが背景からスッと浮かび上がった。
背景を完全に消してしまうのではなく、森の雰囲気をほんの少し残しながら主役を引き立ててくれる。
この「残し方」が、古いレンズらしくて面白い。
4.落ち葉にポツンと青い栗
茶色く湿った落ち葉の中に、ひとつだけ落ちていた青い栗のいが。
何気なくファインダーを覗いてみると、その色が妙に目に留まった。
ピント面のシャープさと、その前後に広がる柔らかなボケ。
撮って出しのJPEGでも、日陰に固定したホワイトバランスのおかげで、緑のイガと枯れ葉の色が深く落ち着いた印象になった。
5.闇の中に差す一筋の光
森の奥。
暗い木々の間から、一筋の光が差し込んでいた。
スポットライトのように若葉だけを照らす光。
明暗差の大きな場面だったが、その陰影がかえって森の奥行きを感じさせてくれる。
こういう光を見つけると、つい足を止めてしまう。
6.ガレ場に広がるテクスチャ
斜面に敷き詰められた岩と苔。
135mmで切り取ると遠近感が整理され、足元に広がる自然の造形が一枚の絵のようにまとまった。
中央に視線が集まるような描写も、このレンズで撮っていて面白いところだ。
7.前ボケとシダの繊細な葉脈
手前の枝葉を前ボケとして入れ、その奥のシダにピントを合わせる。
ほぼ最短距離での撮影。
完璧に均質なボケではない。
わずかに輪郭を残した前ボケが、むしろ森の中にいるような立体感を生み出してくれる。
こういう少し癖のある描写こそ、古いレンズを使う楽しさなのかもしれない。
8.澄んだ水底と揺らめく光
沢へ戻ってくる。
静かな水面の下には、小さな石が見えている。
水面に反射する光と、水底に落ちる影。
その両方を一緒に写し込むことで、山の中を流れる水の冷たさまで感じられるような一枚になった。
9.岩肌を滑る清流
濡れた岩肌を滑るように流れる清流。
シャッタースピードは1/500秒。
水の動きを止めながら、開放F2.8で岩の質感を切り取った。
60年以上前の設計とは思えないほど、ピントを合わせた部分はしっかりと鋭い。
一方で、背景には古いレンズらしい柔らかさが残る。
この新旧が混ざったような描写が、なんとも面白い。
木漏れ日の駐車場と愛車の佇まい
水辺や山道での撮影を終え、駐車場へ戻ってきた。
深い木々に囲まれた静かな駐車場。
葉の隙間からは柔らかな木漏れ日が落ちている。
そして、その中にポツンと佇むNBロードスター。
エンジンを掛ける前に、もう一度だけライカを構えた。
今度の主役は、山の風景ではない。
ここまで一緒に走ってきた愛車だ。
11.木々に囲まれたロードスター
案内板と木々に囲まれた場所に佇むロードスター。
深いグリーンのボディとベージュのソフトトップ、そして足元のメッキホイール。
山あいの景色の中に置いてみると、不思議なくらい自然に馴染んでいる。
木漏れ日がボディラインを柔らかく浮かび上がらせ、静かな森の中でひっそりと息を潜めているようだった。
シンプルなリアビュー
落ち葉の残る道を背景に、真後ろから。
コンパクトで引き締まったリアフォルムと、ソフトトップが描く美しい曲線が印象的だ。
少し低い位置から狙うことで、余計な装飾のないシンプルなリアデザインがより際立つ。
派手さはない。
でも、こうして見るとNBロードスターのデザインは本当に美しいと思う。
エンブレムとボディに映る森
エンブレム周辺をクローズアップ。
光の当たり方によって表情を変える深いボディカラーと、その艶やかな曲面に映り込む木々。
エルマリートのしっとりとした描写が、塗装の質感を丁寧に拾ってくれた。
60年前のレンズで、24年前のロードスターを撮る。
考えてみれば、なかなか面白い組み合わせだ。
60年前の眼で見た、夏の山道
滝巡りの道中で感じた自然の息吹。
そして、静かな駐車場で愛車と向き合う時間。
ファインダーを覗きながら、「ここだ」と思える角度をひとつひとつ探していく。
写真を撮ることそのものが目的ではなくても、こうして一枚ずつ残していくと、ドライブの時間そのものが少し違ったものに見えてくる。
今回使ったElmarit-M 135mm F2.8は、決して現代的な優等生レンズではない。
でも、だからこそ面白い。
60年以上前のレンズを通して見る森は、少し柔らかく、少し懐かしく、そしてどこか情緒的だった。
しっかりとリフレッシュできたところで、そろそろ引き上げよう。
静かにエンジンを掛ける。
心地よい排気音が、山あいの静寂を少しだけ揺らした。
ライカをバッグに戻し、ロードスターを走らせる。
篠山の美しい山道を抜けながら、今度は写真ではなく、自分の眼で夏の景色を楽しみながらゆっくりと次の目的地に向かった。