篠山の城下町を歩いていると、突然、時間の流れが変わったように感じる場所がある。
立派な門や石垣だけではない。
低い土塀。
黒く焼けた板壁。
重なった瓦屋根。
細い路地。
そして、その向こうに見える山。
そんな何気ない景色の中に、かつての城下町の姿が残っている。
ロードスターを離れ、ライカとズミルックスを手に歩いてみる。
今回向かったのは、篠山城の西側に広がる御徒士町の武家屋敷街だ。
御徒士町武家屋敷群へ
まず目に入ったのが、この案内板だった。
「御徒士町武家屋敷群」
その横には、
「重要伝統的建造物群保存地区」
という文字もある。
江戸時代、篠山城が築かれると城下の町割りが行われ、城の西側には徒士と呼ばれる武士たちの屋敷が並べられた。
現在の御徒士町には、茅葺きの門や主屋をはじめとする武家屋敷が残り、城下町の歴史的な景観を今に伝えている。平成16年には国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定された場所だ。
ただ、実際に歩いてみると、いわゆる「観光地」という感じはそれほど強くない。
普通の道路があり、車が走り、住宅が並んでいる。
その中に、古い武家屋敷が残っている。
その自然な混ざり方が、なんとも篠山らしい。
山を背負った城下町
少し路地へ入る。
正面に見えるのは、篠山の山々。
道の両側には白壁や瓦屋根の家が並び、ところどころに古い建物が残っている。
道路脇には昔ながらの側溝もある。
こうして一枚の写真として切り取ってみると、建物だけではなく、道や塀、山まで含めてひとつの風景になっていることに気づく。
城下町というと、どうしても「城」や「大きな屋敷」に目が行ってしまう。
けれど、本当に面白いのは、こうした一本の道なのかもしれない。
城を中心にしてつくられた町が、何百年という時間を経ても、こうして暮らしの中に残っている。
茅葺き屋根が残る町
歩いていると、瓦屋根の向こうから大きな茅葺き屋根が姿を現した。
近くで見ると、その存在感はかなりのものだ。
屋根には長い年月が刻まれ、ところどころ苔も見える。
新しく整えられた古民家とは違う。
長い時間を経た建物だけが持つ、少しくたびれたような表情がある。
でも、それがいい。
完璧に保存された建築を見るのとは違い、ここには「今まで実際に使われてきた家」という感じが残っている。
茅葺き屋根の下には、いったいどんな暮らしがあったのだろう。
そんなことを考えながら、しばらく屋根を眺めていた。
さらに歩いていくと、別の角度からも茅葺き屋根を見ることができた。
大きく張り出した屋根。
その上に組まれた木材。
そして手前に見える瓦屋根。
新旧の屋根が重なって見えるだけなのに、それだけでこの町の時間の長さを感じる。
屋敷の入口にも惹かれる
武家屋敷街を歩いていて面白かったのが、建物そのものだけではなく、その入口だった。
黒くなった木の門。
その奥に続く細い砂利道。
植木に囲まれた玄関。
こういう場所を見ると、つい中を覗いてみたくなる。
もちろん、すべての建物に入れるわけではない。
外から眺めるだけだからこそ、想像が膨らむところもある。
ここで暮らしていた人は、毎日この門をくぐり、どんな景色を見ながら生活していたのだろう。
そう考えながら歩くと、ただ古い建物を撮っているだけではなくなる。
茅葺きと瓦と、現代の調和
さらに歩いていく。
ここでは、昔ながらの茅葺き屋根のすぐ横に引込柱が立っている。
上を見れば電線も走っている。
歴史的な町並みとして見ると、少し不思議な光景にも見える。
ただ、道路上に電柱を建てることはせず、最低限の架空線にとどめていることは評価できる。
「これは今の町なんだ。ここで人が生活しているんだ。」
ということを実感できる。
古いものをそのまま閉じ込めるのではなく、現代の生活の中で使い続けている。
そんな感じがする。
路地に入る
大きな通りから、さらに一本入ってみる。
こちらはさらに静かだ。
舗装された細い道。
低い土塀。
木々に覆われた家。
観光客の姿もほとんどない。
こういう場所を歩くと、カメラを構える回数が増えていく。
何か特別なものがあるわけではない。
ただ、光の入り方や、塀の質感、道の曲がり方が気になる。
ライカを持って歩くには、こういう町がちょうどいい。
武家屋敷の暮らしを想像する
少し歩いたところで、古い建物の前に案内板があった。
「小林家長屋門」。
案内板には、この建物が県指定文化財であることや、江戸時代から昭和戦前期までの伝統的な建造物が残されていることなどが記されている。
こういう説明を読んでから周囲を眺めると、さっきまで何気なく見ていた景色が少し違って見えてくる。
ここには、城下町として栄えていた時代があった。
武士が暮らし、その家族が暮らし、商人が行き交い、長い時間をかけて町が形づくられていった。
今は車が走り、電線が走り、観光客がカメラを持って歩いている。
けれど、道そのものは昔から大きく変わっていないのかもしれない。
古い町の中にある、小さな店
歩いていると、古い町家を利用した店も見つけた。
土壁に囲まれた小さな入口。
その奥には古い建物があり、案内板やメニューが置かれている。
こういう店を見ると、歴史的な建物が単なる「保存物」ではなく、今の町の中でちゃんと役割を持っていることが分かる。
古い建物を残すということは、建物だけを残すことではない。
その場所で人が過ごし、店ができ、新しい時間が積み重なっていく。
そういうことなのだと思う。
外から眺めるだけでは分からないもの
ここまで武家屋敷街を歩いてみて、ひとつ気になってきた。
外から眺めるだけではなく、
実際に武家屋敷の中に入ってみたい。
土塀の向こうには、いったいどんな暮らしがあったのだろう。
茅葺きの屋根の下には、どんな部屋があり、どんな庭があったのだろう。
ここまで町並みを見てきたからこそ、その内側も見てみたくなった。
そして、この御徒士町には、実際に内部を見学できる武家屋敷がある。
武家屋敷 安間家史料館。
安間家史料館は、天保元年(1830)以降に建てられた武家屋敷を改修し、史料館として公開している施設だ。
安間家は篠山藩主青山家に仕えた家臣で、「高12石3人扶持」の禄を得ていた下級武士の家。
茅葺きの曲屋形式の母屋と瓦葺きの土蔵が残り、内部には安間家に伝わった古文書や食器、家具のほか、篠山藩ゆかりの武具や史料などが展示されている。
今度は、武家屋敷の中へ
ここまで見てきたのは、武家屋敷街の「外側」だった。
土塀を眺め、門を眺め、茅葺き屋根を眺める。
それだけでも十分に面白かった。
でも、せっかくここまで来たのなら、今度はその内側を見てみたい。
武家屋敷というと、立派な上級武士の屋敷を想像してしまうけれど、安間家は標準的な徒士住宅とされている。
つまり、ここを見れば、城下町で暮らしていた下級武士の生活が、少し具体的に見えてくるかもしれない。
ライカを持ったまま、武家屋敷の中へ。
建物だけではなく、部屋のつくり、土蔵、庭、そして残された生活道具。
外から眺めていた町並みが、今度は「暮らし」という視点から見えてくるはずだ。
というわけで、次はこの御徒士町に残る一軒の武家屋敷へ向かう。
武家屋敷 安間家史料館。
町を歩く時間から、今度は、
「武家屋敷の中を歩く時間」
へ。
第五章はここで一度、カメラを持ったまま足を止めることにする。
御徒士町武家屋敷群
所在地
兵庫県丹波篠山市西新町
見学
町並みは自由に散策可能
駐車場
篠山城跡周辺の駐車場を利用
アクセス
篠山城跡から徒歩約5分
備考
国の重要伝統的建造物群保存地区の一部